テアトル虹 第3回 映画「スーパーノヴァ」
7月1日(木)TOHOシネマズ シャンテ他にて全国順次公開


© 2020 British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Supernova Film Ltd.

スーパーノヴァ

【STAFF】監督/ハリー・マックイーン
【CAST】コリン・ファース、スタンリー・トゥッチ、ジェームズ・ドレイファス、ピッパ・ヘイウッドほか

映画『スーパーノヴァ』公式サイト
THEATER 劇場情報

今回は新作。7月1日(木)から公開されている「スーパーノヴァ」は、長年連れ添ってきた男性たちの愛と喪失を描いた作品。
サムは20年来のパートナー、タスカーを連れて思い出の地や友人たちを訪ねる旅に出る。 実はタスカーは2年前、若年性認知症と診断され、その症状は緩やかだが確実に進行している・・・。 イギリスの湖水地方をキャンピングカーで巡る旅は、自分たちを見つめ直す旅でもあった。

作家であるタスカーは次作のための創作ノートとテープレコーダーを使い、断片的な執筆を行っている。 ピアニストであるサムは、旅を終えると久々の演奏会が控えており、その旅をしながらリハビリのような練習を行っている。 が、タスカーは徐々に彷徨、記憶喪失などが出てきて、サムを困惑させる。

途中でサムの姉家族の元へ立ち寄り、再会とそしてタスカーが数ヶ月前から企画していたというサプライズパーティを楽しみながらも心はどこか晴れない。 パーティの最中、饒舌に話すタスカーを見て、ふと1人になりたくてキャンピングカーに戻ったサムは、タスカーの創作ノートを見て、あるものを発見する。そこには・・・。

表現は粗いけれど”壊れていく”パートナーに対して、どう向き合っていくのかを自問自答し続けるサムと“壊れていくこと”がわかっているからこそパートナーに対して何を与え、求めるのかを自分なりの答えを導いたタスカーの姿が描かれている。

これまでにも認知症を描いたものがたくさんあった。 最近ではアンソニー・ホプキンスが認知症が進行していく男を演じ、今年のアカデミー賞最優秀男優賞を受賞した「ファーザー」や、同じくアカデミー賞主演女優賞にジュリアン・ムーアが輝いた「アリスのままで」。
結婚して44年になる夫婦、妻が認知症になる『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』。 お嬢様と労働者の身分違いの恋の上にお嬢様が若年性認知症になる『私の頭の中の消しゴム』。 シングルマザーの娘が、認知症となった母親に寄り添うメキシコ作品「グッド・ハーブ」。 赤木春恵演じる認知症の母の介護をする息子を描いた「ペコロスの母に会いに行く」。
マーチン・ランドーとエレン・バースティンの掛け合いが素晴らしかった「優しい嘘と贈り物」。 渡辺謙が若年性認知症になる男を演じた「明日の記憶」。 そして有吉佐和子原作の、まだボケと言われていた昭和ニッポンの、認知症映画の先駆け「恍惚の人」などそのどれもが今作も踏まえて直面するのは対峙の仕方。
親子、夫婦、恋人と関係性は違えど、愛する人の前には何らかの答えが必要であり、用意しなければいけないのだ。

サムとタスカーも、昨日今日の付き合いではない、20年という歳月を送ってきたふたりだ。共に同性愛者であることで、社会から虐げられてきた時代を過ごしてきたはずだけに絆は誰よりも深く強い。
ちなみにイギリスでは2005年12月5日より 同性愛カップルに結婚とほぼ同等の権利を与えるシビル・パートナーシップ法が施行された。21世紀に入ってから! そのことを踏まえてみると、彼らがやっと安息の日々を得て、ありのままで生きようと歩を進めてきた人生の最終章は、あまりに残酷だ・・・。


サムを演じるのは「アナザー・カントリー」「アパートメントゼロ」、「シングルマン」「マンマ・ミーア!」とゲイ関係の佳作に数多く出演してきたコリン・ファース。 今作での彼の演技は、忘れることができないだろう。
そしてタスカーには、スタンリー・トゥッチ。「プラダを着た悪魔」のゲイの編集者として軽妙洒脱なユーモア溢れるゲイの雑誌編集者を演じていたけれど、タスカーにもそういったキャラクターが備わっている。 プライベートでも20年来の友人であるふたりの関係性が遺憾なく滲み出ており、ラストへ向かうほどに胸に刻み込まれていく。 ラスト、サムが奏でるエルガーの「愛の挨拶」が静かなる余韻と、さまざまな結末を考えるはず。

仲谷暢之
大阪生まれ。吉本興業から発行していた「マンスリーよしもと」の編集・ライティングを経て、ライター、編集者、イベント作家として関西を中心に活動。


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